クリダマ

「クリダマ」とは「クリームチーズのダマ」の略。ブログ開設時たまたまレアチーズケーキを作っており、何も考えずに冷蔵されていたクリームチーズを使ったらダマになってしまった。レアチーズケーキを作ろうと思わなければ、おそらくダマになることなんて知らなかったろうに。そういう感じのブログ。

コーヒールンバ!


井上陽水 コーヒー・ルンバ - YouTube

 

先日千葉で古い喫茶店をみつけたのです・・・

 

 建物が醸し出すレトロな空気に誘われて特にコーヒーが好きなわけでもないのにふらり店に入る。年季の入ったドアをぎいと押して中に入ると、なるほど昔ながらの喫茶店の趣である。右手にテーブル席、左手にはカウンター。席数は20くらいか。テーブル、椅子も相当使い込まれたものだ。テレビがついているが店の人はいないようだ…と思ってカウンターに目をやると白髪の男性が頭を垂れて座っていたのだ。その様子が刑事モノでみたとある場面に重なって「第一発見者!?」と一瞬ヒヤッとしたが、お腹が上下に微かだが動いていたので寝ているのだとわかって安心した。目を覚ます様子もなく、カウンター奥のレジが少し開いていたのを遠目で確認して「今日は終わったのか、もう17時半だし」と判断したが、カウンターの不思議な物体に興味を奪われて動けなくなってしまった。それは理科の実験に使うフラスコやビーカーのようなもので、数個あるフラスコには水が入れられており、そのうち一つはカウンターから突き出たバーナーで熱せられていたのだ。おそらくコーヒーをいれるものだろうとは察しが着いたが果たしてどう使うのか…気になるところだったので遅い昼寝をしている店主を起こすかどうか2分ほど迷った。次の予定もあったのでまた出直すかとドアを引いて外に出た。窓から中をみると眠そうなマスターがこちらをみていた。起こしてしまったなら戻るしかないと思い、「まだやってますか?」と聞くと「やってますよ」と若干気だるそうにして返した。

 「こちらへどうぞ」と先ほどの加熱されているフラスコの前に案内された。私は椅子に腰掛け無言でフラスコをみていた。気のよさそうな店主はメニューを持ってきてくれた。コーヒーの欄には「ソフトタイプ」「ストロングタイプ」と普段喫茶に行かない私には見慣れないものがあった。「ソフトタイプください」「はい」店主はビーカーとフラスコを組み合わせコーヒーを淹れはじめた。

 ビーカーに挽いたコーヒーをいれる。ビーカーには下に試験管のようなものがついており、それをフラスコに組み合わせる。ビーカーに少し湯をいれ、フラスコを加熱すると驚くべきことに湯が試験管を通り、ビーカーの方へ上って行くのだ。上った湯はコーヒーを煮出す。頃合いをみて店主が火を消すと煮出された液体コーヒーはフラスコへ降りてくる。上りきらなかった湯と混じる。どうやらこれで完成のようだ…店主はコーヒーカップに出来上がったコーヒーを注いでいく。「どうぞ」コーヒーカップは勢いよく香りを立てている。「コーヒーは香りを愉しむもの」という言葉が頭をよぎり、その香りをするりと吸ってみた。私は鼻があまりよくないのだが「いい香り」だとハッキリ認識した。

 そんなことをしていると「今日は寒いですね」と店主。最初は気候の話題から入るのは鉄板だなあと思いながら「そうですね」と相槌。適当に相槌を打っていたら地球温暖化で日本の気候がおかしいという話題になった。そんなとき、店主と同じくらいの歳の男性客が入ってきた。カウンターにどっかり座ると「ブレンドコーヒー。いや、水出しコーヒーあるっ?」「ありますよ」フラスコたちのとなりにある巨大な砂時計のようなものを指差す。私はそれまでこれがコーヒーを淹れるものだとはわからなかったのだ。「でもアイスしかできません」「んならブレンドコーヒーで」「わかりました」またビーカーとフラスコ操作しはじめる。その様子を刻々とみつめていると「理科の実験みたいでしょ?」店主はにこやかな表情で言った。そしてまた熱湯が遡上する。これがなんとも不思議なのだ。「これはサイフォン式。コーヒーの淹れ方にはドリップとサイフォンの2通りがあるんですよ」店主の解説をはじめた。サイフォン式の方は一人分ずつしか淹れられないが、ドリップ式は5、6人分淹れてしまえるので酸化させやすいということらしい。その辺のチェーンのコーヒーは煮出されて時間が経っていることが多いのだとか。「酸化したコーヒーを飲むために砂糖とミルクをたっぷり入れてみんな胃を悪くしている。コーヒーがダメだった人が一度うちのを飲んだら常連になってしまった」店主は教えを説くように言った。そして水出しのコーヒーを振舞ってくれた。「よくみてください。コーヒーってのは本来こうやって琥珀色に透き通っているものなのです。黒かったり、濁っているコーヒーを飲めば身体を悪くするに決まっています」安いものがお得と最近言われるが本当に得なのか考えたほうがいいと店主は言っていた。確かにドリンクバーのアイスコーヒーで胸焼けを起こしたことがあった。そのコーヒーに比べこの店で飲んだアイスコーヒーは嫌なクセがなく驚いた。そんな話を聞くうちに時間が来たので「また来る」と心の中でつぶやき店を出た。

今またあの店のコーヒーが飲みたくて仕方がないのだ。まるでコーヒーに恋してしまったかのようだ。